ホライズンブリッジ

 日は沈みかけ、長い橋の両サイドの海面をオレンジに染めていた。 空は少しづつ闇を下ろしていき、一つ二つと星が輝き出して行く。橋の外灯が明かりを灯す。
 電車も通わない、人すらいない長い橋を、スコールは歩いていく。
―……遠いよな。こんなに遠いとは、思ってなかった。
 F.H.を出て、どれ程の時間が経ったのか。 スコールはリノアを背負い、エスタへの遠い道のりを歩き続ける。
―俺……何やってるんだ?……エスタに行って……エルオーネ捜して……エルオーネに会って……。 エルオーネの“過去へ意識を送る”力で、リノアが救えるという微かな希望。
―エルオーネに会えば、何もかも解決するとは限らないんだぞ。それなのに俺は……。
 彼女は“過去は変えられない”と言っていた。 リノアのこの状態を、変えることは出来ないということだってあるのに。
 夕日に輝く海と、どこまでも続く橋。潮風がリノアの髪を靡かせ、スコールの首筋をくすぐっていく。 背中から伝わる微かな体温が、彼女が眠っているだけであることを証明している。
―……俺変わったな。
 リノアを外灯の柱に凭れさせ、その近くにスコールは座り空を眺めた。 完全に日は沈みきっていないが、空には数個の星がきらめいている。
―皆、どうしているかな……。俺のこと笑っているかもな。いや怒ってるかな?
「どう思う?」
 振り返り、リノアに聞く。当然、答えは返ってこない。
 しかし、スコールは話し続けた。普段は口に出すことのない、自分の本心を。
「俺……本当は他人にどう思われてるか、気になって仕方ないんだ。 でも、そんなこと気にする自分も嫌で……。だから……自分のこと、他人に深く知られたくなかったんだ。 そういう自分の嫌な部分、隠しておきたいんだ」
 だから、女子からの手紙を断った。
 キスティスの言葉にも、耳を貸さなかった。
 SeeD同士の馴れ合いを避けた。
 仲間のことを考えたくなかった。
「スコールは無愛想で、何考えてるのか分からない奴。皆にそう思われていれば、とっても楽だ」
 でも、今は違う。
 こうしている間にも、仲間達のこと、バラムガーデンのことが気に掛かる。 それは、指揮官の義務だとかとではなく……。
「今の、皆には内緒だからな。リノア……」
 リノアからの答えはない。
 視線を再び空へ戻すと、その星空を流れ星が流れる。
 まるでリノアが答えてくれた気がして、スコールの視界が少し滲んだ。






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