翌日、ブリッジにてスコールは目的地を告げた。
「エスタだ」
その国の名前に、バラムガーデン唯一の操縦士ニーダは顔をしかめた。
「うひゃ……沈黙の国エスタ……」
実を言うと、スコールは『エスタ』について、殆ど知らなかった。無言でニーダに説明を求める。
「世界の問題児だった国だよ。それに、あのあたりの地形って、ガーデンじゃ進めないかもよ」
「……とにかく、エスタへ行く」
指揮官の命令に、ニーダの顔を渋る。
つまりは、“何がなんでもエスタへ行け”ということなのだ。
その意向は、キスティスにも充分伝わっていた。
しかし、ニーダの言うように、ガーデンで行くには厳しい地形である。
「エスタの大陸は、大陸全土が大きな山に囲まれているわ。
静かにそびえ立つ山が、大陸を隠しているの。人々の出入りもほとんど無いわ。
そんなところも“沈黙の国”と呼ばれる由縁になっているわ。
多分、ガーデンの飛行高度じゃ、山を越えて大陸内に入るのは無理だと思うわ」
教官であったキスティスが言うなら、間違いないだろう。
だが、エルオーネがそこに居る以上、スコールはどうしても行かなければならない。どうしても……。
「確か……」
どうするかと皆が頭を捻るなか、キスティスが口を開いた。
「エスタ大陸に入る道は一本。F,H,から伸びている長い線路。
F.H.は昔、エスタと唯一交流があった都市なの。その名残ってわけね」
「なら、次の目的地は『F.H.』だな」
幾分表情の晴れたニーダの言葉に、スコールは頷いた。
三本の操縦桿の内、真ん中の舵に当たるそれをニーダは押す。
するとガーデンは前進を始め、F.H.を目指した。
「まさか、エスタに行くことになるなんてね。あそこの兵士って、何か気味悪いのよね」
シュウの言葉にはキスティスも同感で、肩を竦めて答えた。
ガルバディア軍との接触も無く、夕刻近くにガーデンはF.H.に到着した。
交通のこと、時間のこともあり、行動は明日となった。
日も沈み始めた頃、スコールは保健室に来ていた。
カドワキ先生は留守で、ここにはスコールと眠り続けるリノアしかいない。
―行こう、リノア……
スコールは、リノアに付けられていたコードを全て外し、上体を抱き起こす。
―エルオーネに会いに行こう。
カドワキ先生の許可を得ず、スコールはリノアを背負い保健室を出て行く。
書置きぐらいは残すべきかと思ったが、それよりもエスタへ行く気持ちの方が勝っていた。
―エルオーネが、俺達を会わせてくれる。
夕食の時間帯というのが幸いして、殆ど人に会うことなくスコールは二階へと行けた。
そして、廊下奥のデッキへと向かう。
―……悪いな、皆……このままじゃ、俺、何も出来ないんだ。
デッキからF.H.の入り口に入り、長く伸びる線路を見下ろす。
大陸と大陸を繋ぐ線路だけに、全く先が見えない。しかし、スコールは歩き出した。
―ちょっと遠いけど、何とかなるだろう。
リフト乗り場で、最初の時と同じ男が居た。
向こうもスコールを覚えていたらしく、手を上げ迎えてくれる。
「下に降りるのかい?」
「ああ、頼む」
「了解だ、任しといてくれ」
スコールはリノアを下ろし、床へ寝かせた。暫くして、リフトが動き出す。
この線路の先にエスタが、エルオーネが居る。
下へ着いたリフトを降り、あの時と同じように男に挨拶をする。
そして、リノアをしっかりと背負い、スコールは線路へ向かった。
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