グッドホープ岬/イデアの家

 スコール、ゼル、キスティスの三人は、再びイデアの家を訪れた。 イデアは先と同じように海岸に佇み、シドと共に海を見ていた。
「私で力になれそうなことはありますか?」
 静かに笑みを浮かべ、イデアは聞いてきた。
「あっ、それが……スコールがですね……」
「何よゼル。あなた何も知らずに来たの?」
 しどろもどろに答えるゼルにキスティスが突っかかる。 “だってスコールがよ〜”と言い訳を始めたが、それより何故キスティスも来たのか逆に聞き返された。 彼女も“ゼル達が走って行くから付いて来た”と、同じような事を言ったので“人のこと言えないじゃないか”と突っかかれる。
 そんな二人を他所に、スコールはイデアに聞いた。
「白いSeeDの船。エルオーネが乗ってるはずなんです」
「あの子達は……。用心深いからひとつの場所に、止まっていることはめったにありません」
「……そうですか」
 冷静に考えればそうだ。 イデアがエルオーネ、白いSeeDの居所を知っているなら、とうにアルティミシアに見つけられている。 だから、あらゆる力、軍事力を使って捜索させていたのだから。
「ああ、でも……」
 イデアが何かを、思い出した。
「あの子達、セントラの景色を気に入ってたみたいでした。 だから、このセントラ大陸の入り江の何処かに、船を停めているかもしれません」
「そうと分かれば、行こうぜスコールッ!」
 ゼルの言葉に、スコールも同意する。
 三人がバラムガーデンに戻ろうとすると、イデアが“ああ、スコール”と呼び止めた。 そして家の中に入り、暫くして一通の手紙を差し出した。
「私が書いた手紙を、持って行きなさい」
 イデアの手からスコールへ、手紙が手渡される。
「これで彼等は、貴方たちを歓迎してくれるでしょう」
 シドは、イデアと共にここに残ると言った。 自分が居なくても、スコールを先頭にキスティス達が協力すれば、バラムガーデンは大丈夫と確信したのだ。 別に永遠の別れではない、全てが片付けば戻ると彼は言った。イデアと共に。
 万が一の為にと、高速上陸艇を一隻残し、スコール達は白いSeeDの捜索へ旅立つ。 遠ざかるバラムガーデンに、シドとイデアは手を振り続けた。
 『白いSeeD』シドが言うには、最初はしつこいエスタから、エルオーネを守るために手に入れた船だったそうだ。 イデアが船長として乗っていたのだが、いつの間にか親の居ない子供達を集め、孤児院のようになっていった。 彼女は、子供達に生きる為の様々なことを教え、彼らもまた、自分達をSeeDと呼ぶようになったという。 そして成長した彼等は、独立し現在も世界中の海を旅している。
 セントラ大陸の入り江を隈なく捜索していると、イデアの言葉通り、白いSeeDの船を発見する。 だが、最初に会った時より、船の所々に攻撃を受けた跡が見受けられた。
 甲板に下りたスコール、ゼル、キスティスに船員は警戒する。 その後ろから出て来た、リーダーと呼ばれる彼も、警戒心を解くことなくスコールの話も信じてくれず撤退を要求した。 再び話をと甲板を歩くと、思いがけない人物と再会する。 リノアと共にレジスタンス活動をしていた、ゾーンとワッツだ。 二人は、ティンバーを出てすぐガルバディア軍に追われていたところを、この船に助けられたと言う。 そして、ワッツの情報から、エルオーネが船を降りたということを知らされる。 詳しい話をと、スコール達はリーダーが居ると聞いたキャビンに向かった。
 話の前に、スコールはイデアから受け取った手紙を、リーダーに手渡した。 見覚えのある筆跡に、彼はスコールの話を信じてくれた。 また、イデアを救ったことに感謝し、船の代表者として敬礼をする。 自分達と同じ敬礼に、スコールは可笑しく思え、それにリーダーが笑顔で答えた。
「SeeDを作る時に、敬礼だけは決まっていたって、ママ先生が言ってたよ」


 ワッツが言った通り、エルオーネを船を降りていた。それも、自ら進んで。
 エルオーネを返してもらって間もなく、彼等は何かを捜索していたガルバディア船団に遭遇し追われたという。 全速力で逃げたため途中でエンジンが故障してしまい、エルオーネを守る為、戦闘準備を始めたそこへエスタの船が現れた。 エスタ船とガルバディア船の戦闘が始まり、彼らも巻き込まれていった。 その中を、一隻のエスタ船が横付けされ、乗り移るように言ってきた。 ガルバディアと同じようにエスタを信用出来ない彼等は、当然拒否する。 戦闘が激しくなり、エスタ船も諦め離れようとしたとき、エルオーネは何かを叫びながら船に飛び移った。 エスタ船は戦闘を避けるように、そのまま去っていった、とリーダーは話してくれた。
「エルオーネはエスタに居るってことか?」
「……そう思っている」


バラムガーデン/ブリッジ

 翌日、ブリッジにてスコールは目的地を告げた。
「エスタだ」
 その国の名前に、バラムガーデン唯一の操縦士ニーダは顔をしかめた。
「うひゃ……沈黙の国エスタ……」
 実を言うと、スコールは『エスタ』について、殆ど知らなかった。無言でニーダに説明を求める。
「世界の問題児だった国だよ。それに、あのあたりの地形って、ガーデンじゃ進めないかもよ」
「……とにかく、エスタへ行く」
 指揮官の命令に、ニーダの顔を渋る。 つまりは、“何がなんでもエスタへ行け”ということなのだ。
 その意向は、キスティスにも充分伝わっていた。 しかし、ニーダの言うように、ガーデンで行くには厳しい地形である。
「エスタの大陸は、大陸全土が大きな山に囲まれているわ。 静かにそびえ立つ山が、大陸を隠しているの。人々の出入りもほとんど無いわ。 そんなところも“沈黙の国”と呼ばれる由縁になっているわ。 多分、ガーデンの飛行高度じゃ、山を越えて大陸内に入るのは無理だと思うわ」
 教官であったキスティスが言うなら、間違いないだろう。 だが、エルオーネがそこに居る以上、スコールはどうしても行かなければならない。どうしても……。
「確か……」
 どうするかと皆が頭を捻るなか、キスティスが口を開いた。
「エスタ大陸に入る道は一本。F,H,から伸びている長い線路。 F.H.は昔、エスタと唯一交流があった都市なの。その名残ってわけね」
「なら、次の目的地は『F.H.』だな」
 幾分表情の晴れたニーダの言葉に、スコールは頷いた。
 三本の操縦桿の内、真ん中の舵に当たるそれをニーダは押す。 するとガーデンは前進を始め、F.H.を目指した。
「まさか、エスタに行くことになるなんてね。あそこの兵士って、何か気味悪いのよね」
 シュウの言葉にはキスティスも同感で、肩を竦めて答えた。


 ガルバディア軍との接触も無く、夕刻近くにガーデンはF.H.に到着した。 交通のこと、時間のこともあり、行動は明日となった。
 日も沈み始めた頃、スコールは保健室に来ていた。 カドワキ先生は留守で、ここにはスコールと眠り続けるリノアしかいない。
―行こう、リノア……
 スコールは、リノアに付けられていたコードを全て外し、上体を抱き起こす。
―エルオーネに会いに行こう。
 カドワキ先生の許可を得ず、スコールはリノアを背負い保健室を出て行く。 書置きぐらいは残すべきかと思ったが、それよりもエスタへ行く気持ちの方が勝っていた。
―エルオーネが、俺達を会わせてくれる。
 夕食の時間帯というのが幸いして、殆ど人に会うことなくスコールは二階へと行けた。
 そして、廊下奥のデッキへと向かう。
―……悪いな、皆……このままじゃ、俺、何も出来ないんだ。
 デッキからF.H.の入り口に入り、長く伸びる線路を見下ろす。 大陸と大陸を繋ぐ線路だけに、全く先が見えない。しかし、スコールは歩き出した。
―ちょっと遠いけど、何とかなるだろう。
 リフト乗り場で、最初の時と同じ男が居た。 向こうもスコールを覚えていたらしく、手を上げ迎えてくれる。
「下に降りるのかい?」
「ああ、頼む」
「了解だ、任しといてくれ」
 スコールはリノアを下ろし、床へ寝かせた。暫くして、リフトが動き出す。 この線路の先にエスタが、エルオーネが居る。
 下へ着いたリフトを降り、あの時と同じように男に挨拶をする。 そして、リノアをしっかりと背負い、スコールは線路へ向かった。






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