その日の夜、学園内のホールでは、SeeD就任披露を兼ねたパーティーが行われた。テーブルには数々の料理と、この時ばかりは許されるワイン、シャンパン等が並べられている。来賓者も多く訪れ、学園長は挨拶回りに追われていた。中央ではクラシックの音楽に合わせ、男女がペアを組み踊っていた。
 主役の新人SeeD達は、各々自由に食事やクラスメイトと雑談をしていたが、いつの間にか先輩SeeD達に囲まれ、それぞれから戦闘経験談を聞いている。スコールも最初はその輪に居たのだが、話すことも返すことも少ない彼に、次第に人は引いていった。他人との接触を嫌う自分には、好都合なことである。今はパーティーが早く終わるのを望み、1人壁に凭れていた。
 『訓練施設』でのキスティスの会話から、昨日の『ドール』の事までといい、たった2日間で非常に疲れていた。体力面でなく、精神面で。
―早く休みたい……楽になりたい……
 そう思ったとき、ふとキスティスの言葉が過った。
 『人は1人では生きていけない』
 そして考えた。
 ―昨日の『ドール』山頂での事が正規の任務で、自分が1人だったとしたら……
 スコールはサイファーの様に表出す事はないが、1人で敵軍と対等に闘う能力はあると信じている。しかし、昨日のあれはどうだ。ゼル、セルフィのサポートがあって敵軍、特にあのロボットと渡り合うことが出来たのではないか。モンスターにしてもそうだ。『訓練施設』内、ましてやこの辺りよりも強力なのが多く存在していた。自分1人で出来ると、自負していたのに敵軍1人、モンスター単体に予想外に手間取っていたではないか。
 あれが正規の任務上、自分が1人だとしたら……。
 一瞬背筋を冷たいものが走った。
―相手を気遣い、考える……。
 スコールは、何気にホールの硝子張りの天井を見上げる。雲一つない、満天に広がる星空をただ眺めた。
―その前に、俺をそう見てくれる相手が存在するのだろうか……
 その言葉を聞き入れるかの様に、星が一筋流れた。
 暫くして視線を戻すと、その先に同じように夜空を眺める女子がいた。服装からして、来賓者のようである。彼女はスコールの視線を感じ、顔を戻すと笑みを掛けてくれた。そして、天井を指さした。
 『君も見た?』
 彼女の表情は、そう言っていたような気がした。返す言葉もなく見つめていると、彼女の方から歩み寄ってきた。
 一歩、一歩と2人の距離は縮まっていく……。





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あとがき

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