翌日の、サイファーとの自称“訓練”は最悪だった。                  
 魔法無しでガンブレードのみとの条件だったのだが、自分が不利になったとたん魔法を放ってきたのだ。その上、斬りつける際にガンブレードの引き金を引いたのである。
 おかげで額に傷を付けられ、保健室ではカドワキ先生と担任のキスティスから小言を貰う事となった。教室に入れば、“どうしたスコール。その頭の包帯は”などと傷を作った当人サイファーは話しかけて来るし、数人の女子集団からは“罰が当たったのよ”と言葉を飛ばされた。
 だが、最悪の出来事は実地試験で起こった。
 夕方からの『ドール』での実地試験。班は3人構成となっており、スコールはB班に配属された。メンバーは班長のサイファー、もう1人はゼル・ディンとなった。変更は出来ないのかとキスティスに聞いたら、“だめよ”の一言で返ってきた。正直不満だった。
 任務内容は、本体が市街地のガルバディア軍を一掃した後、山間に残っている敵をドール軍と挟撃するというものだった。スコール達はそのフォローで、担当区の市街中央広場で待機となった。だが、一時間が経とうとしても敵どころか味方も現れず、緊張感が薄らいでいくなか、それは始まった。
 数人のガルバディア兵が広場を警戒しながら、山間部方面に向かって行ったのである。それで敵軍の目標が電波塔と判明した途端、サイファーの判断で向かう事になった。班長命令とはいえ、与えられた任務上、立派な命令違反である。
 山中ではモンスターが巣くっており、面倒ではあったが、無事電波塔へと着くとサイファーは躊躇する事もなくそこへ向かう道を降りて行ってしまう。その時、彼の顔がほころび、喜んでいたのをスコールは見た。又、伝令に来たと言うセルフィ・ティルミットまでが行ってしまい、行かざるをえなくなってしまう。結果、塔の中、最上階の兵とバトルを展開する事となってしまった。また、最上階のバトルでは、途中にコウモリのような翼と、身体にしては大きな手をした足のないモンスターの乱入があったが勝利する事が出来た。
 その後、セルフィからの伝令である“撤収”に一同は焦り、山頂から海岸までを30分で戻らなければならなくなった。しかもサイファーは、勝手に1人でリフトに乗って降りて行ってしまうし、遅れて降りたスコール達は背後から現れたクモの様なロボットに、執拗なまで追いまわされる。どうやら標的設定を自分達に合わされていたらしく、自己修復機能という厄介なものもあった。3人は、今の状況で完全停止は不可能と判断し、攻防しつつ海岸まで走り続けた。
 その時の爆発音で、ただならぬ気配を察知したキスティスは船の機関砲を用意した。しばらくして、ゼル、セルフィ、スコールと海岸へ転がり落ちてきた。その後に巨大な機動兵器が飛び下り、砂に足が埋まり動きを止めるが、すぐさま体制を整え3人を追いかけ始めた。船にゼルが一番に乗り込み、それにセルフィが続く。乗務員はロボットを見るや、あわてて船を後退させ始めた。それを見たスコールは覚悟を決め、船に向かって飛んだ。その身体をゼルが受け止める。
 3人が乗員したのを確認したキスティスは、狙いを定め機関砲を放つ。巨大な弾丸はロボットの障壁をはじき飛ばし、装甲に蜂の巣のような穴を開けた。しかし、なおも前進を続けるロボットに、今度は引き金を弛めず、動きが完全に止まるまで打ち続けた。船が海岸を離れた瞬間、大爆発を起こした共に、自己修復機能が作動出来ないほど木っ端微塵にロボットは吹き飛んだ。閉じるハッチから爆発を見た3人は、山頂から海岸までの全速疾走の疲れか、床に座り込んでしまった。
 本当に、朝から最悪な出来事続きだった。





 

 命令違反を起こしたため、SeeD選考は不合格で懲罰もやむおえないとスコールは踏んだ。それはゼルも同様で、『バラム』の港に着いてからもサイファーの悪口が止まることなく続いていた。 
 正直、スコールとセルフィはうんざりしている。
「もうゼル〜、いいかげんにしなよ。落ちちゃっても、また次に頑張ればいいじゃない」
「わかってるよっ!でも筆記試験って、すっげ〜難しいんだぞー。またあれをやると考えると……だーっ!サイファーの馬鹿野郎っ!」
 町の中心、しかも人目を考えずゼルは絶叫した。所々から視線が集中し、スコールは自分は無関係であることを決め込む。
―早く、帰ろう……
 歩き出すスコールに、セルフィも付いて来る。彼女も同じ考えのようだ。             
「なんだよ、もう帰るのか?」            
 “俺の家此処に在るんだ”と、ゼルは先程とは違う明るい表情で2人を誘う。その誘いに、セルフィの表情が変わる。どんな家で、どんな家族なのか気になるらしく、行く行くと手を上げ跳ねる。スコールは興味がないので、そのまま帰ろうと歩き出す。            
「ねぇ、行こうよ〜スコール〜」            
「今日は帰ったって何もないんだしよ、寄ってけよ」            
 動きを止めたスコールは、2人を見返す。            
―俺に声を掛けるな。仲間と思われるだろ。       
 ずっと自分達に注がれる視線を、2人は感じていないのだろうか。だが、スコールも無駄な抵抗なのに気付いていない。同じ制服である以上、誰から見ても彼等は仲間同士にしか見られないのである。





 

 ガーデンに戻った3人が翌日に聞いたのは、不合格でも懲罰でもなかった。SeeD就任が決定、つまり合格との通達だった。就任式と共に認定式が、3階の学園長室で行われる。今回の試験で就任が決まったのは、スコール、ゼル、セルフィとニーダと言う男子生徒の4人だった。        
 気になる命令違反の懲罰は、後日スコール達とキスティス、シュウの証言の上、班長のサイファー1人に下される。





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