昼食時とあって此処は混み合っていた。その中で話題となっていたのは、SeeD選考の筆記試験結果のことばかりであった。今日の夕方に、各教室の教官から発表される事となっている。そわそわしている者、友人同士諦めあっている者と様々である。
その中を食事の載ったトレイを手に、適当に空いている席へスコールは着いた。
食事を始めてしばらくしてからだ。
「彼でしょ?」
後ろの席で数人の女子が、自分を伺いながら話していた。
筆記試験結果同様に、今朝から話題になっている話があった。
今日で何度目になるのだろうか、スコールの口から自然と溜め息が出てしまう。
昨日の女子を振った事は、今日教室に入った時からを発端にいたる所で囁かれていた。どうやら女子の友人達が、キスティスに言っただけでは気が済まず他の者にも話したらしい。それが次から次へと口伝えで広がっていき、行く所々で女子を中心に非難めいた視線を注がれていた。
―他人の色恋沙汰より自分の事を気にしろ。あんた等はSeeDになる為、此処に来たんだろうが……
口に出すことなく食事を進めるが、反応を返さないのをいいことに彼女たちはありもしないスコールの噂話を始めた。
いいかげんにうんざりしてきた。食事もそこそこに席を立とうとすると、それを止めるかの様にテーブルの先に手が着けられた。自分を誇示する音付きで。
「今朝から注目の的だな、スコール」
相変わらずの相手を見下し、皮肉った物言い。
視線を上げたそこには、トレードマークの白いコートを着たガーデンの風紀委員長殿、サイファー・アルマシーが立っていた。
一番に取り締まらなくてはならない男が何故風紀委員なのか、しかも委員長になれるのか未だ理解出来ない。後ろには側近的な存在の、雷神と風神がいた。
「噂が絶えない人気者は辛いな」
「迷惑なだけだ」
「本当に冷たい男だ」
「……」
これ以上関わりたくないので、席を立つスコールをサイファーは止めた。気安く肩を掴んで。
「SeeD選考の筆記試験、合格おめでとう」
周りには知られないよう、小声でそれを言う。
夕方発表の結果を、どうしてサイファーは知っているのだろうか。彼の背後に視線を移すと、雷神が顔を逸らしたが、風神は毅然とスコールを見返している。昨日の訓練施設に彼等は居て、キスティスとの会話を聞いた様だ。それをサイファーに話したのだろう。
「初めてにして合格。初回は必ず落ちるものなんだが、さすが優等生だな」
「……」
「だが、実地試験はそうはいかない。実戦だ、本物の戦いなんだ。訓練なんかガキの戦闘ごっこさ」
―何が言いたいんだ……?
「いくら優等生のお前でも、その腕が実戦でも発揮出来るかどうかわからない。俺が見定めてやるよ。俺は実地試験の常連だ、数々の実戦経験がある」
―そういう事か……
この男は何かにつけては、自分を挑発し“訓練”と偽った勝負を仕掛けてくる。おそらくこれもその一つとなるのだろう。
しかし実地試験の常連と言うが、つまりSeeD選考試験に落ち続けているという事ではないだろうか。自慢気に言うのはどうかと思うのだが。
「どうだ、実戦経験豊富の俺が相手をしてやるんだ。だが実地試験前にケガなんかされると、あの先生殿がうるせえしなー。やめるか?」
“先生殿”の言葉に嫌な含みを感じたが、同時にキスティスがいないと何も出来ない子供扱いをされたようで気に入らない。それに断れば断ったで、この男の口からくだらない噂がまた一つ増える事になる。正直、気がのらないが―
「わかった。場所は?」
「ガーデン内でやると、教官や先生殿がうるさいからな。明日の朝のHR前、炎の洞窟近くの岩場でどうだ」
「いいだろう」
「じゃあ、決定だ」
自分との勝負に、サイファーは気味が悪いくらい楽しそうな目をする。いや、訓練でも同じ目をしている。
彼には闘う事を心底喜ぶ節があり、また、勝利には異常なまでの執着があった。訓練であっても手は抜かず、相手が降参を口にするまで攻め続けた。その中に教官も数名含まれており、生徒に負けたショックから退職した者もいた筈だった。
―やっかいな男に、目を付けられたな……
サイファーの事も重なり、完全に昼食を食べる気が失ってしまった。今度こそ食堂を去るべく、残った食事のトレイを手にスコールは席を離れた。