作 中村あきら




 プロとして通用する高い戦闘能力を備えた人物の養成を行う私立の兵士養成学校。通称『ガーデン』。
 現在、3校あるガーデンの中心的存在である、ここ『バラムガーデン』は、自由で開放的な雰囲気に包まれている。校内での行動や服装は、生徒の自主性にまかされているし、24時間利用可能な訓練施設があるため、バトルへの関心は高い。生徒が独自に結成したサークル活動も活発で、“自由奔放”という言葉か教育方針と捉えられてもおかしくない学園である。
 その1F、寮や食堂のある生活の場の廊下を1人の女性が歩いている。
 彼女の名は、キスティス・トュリープ。
 10歳でガーデンに入学し、15歳で試験資格を得ると同時に最年少でSeeDに合格。また、17歳の若さで教員の資格までも取得した超エリートである。その才色兼備ぶりから、男女を問わずに熱狂的な崇拝者は多い。『トュリープFC』が組織される程で、授業用のイミテーションの眼鏡が、知的な女性を常に演出している。
 キスティスにとって日常と化している憧れの眼差しが、今日も向けられていた。声を掛ければ穏やかな表情で挨拶を交わしてくれる。言葉を返された生徒は、その表情と眼鏡の下の優しい眼差しに酔いしれていた。
 しかし穏やかに見える表情の裏は、焦り、急ぎで一杯だった。
 彼女の歩く先は、自然と道が出来ていくので幸いな事なのだが、これから向かう先はこうはいかない。それにこうして悠長に歩いている間にも、目的の人物は、予測不可能な行動をする者だ。
 歩く速度が徐々に速くなっていた。





◇訓練施設◇

 24時間利用可能な施設である。施設内には下級から中級からのモンスターが生息しており、実践さながらの訓練が出来る。当然のことながらモンスターは本物なので、怪我をする者は当然いた。
 そこへキスティスは迷うことなく入っていく。
 廊下を歩いた先の室内は一定の温度に保たれ、熱帯地方の草木が植樹されていた。所々からモンスターの鳴き声(呻き声)も聞こえ、いわば“小さなジャングル”と言ったところである。入って直ぐに、少し開けた場所がある。その両サイドに頑丈な扉、周りを高圧電流の流れる柵が囲んでいる。下級,中級と言えども凶暴なモンスターであるし、園内には実践訓練を受けていない5歳〜12歳の年少者がいる。モンスターの脱走を防ぐ対策は、充分にされていた。
 その片方の扉を潜り、キスティスは周りを警戒しつつ一人の名を呼んだ。
 「スコール、スコール・レオンハート!居るんでしょ!?」
 呼び続ける名前に、帰って来るのはモンスターの声ばかり。
 此処に居るのは確かなのだ。暇さえあれば1日中入り浸り、モンスターと戯れている(本人は訓練の一環として闘っているのだが、あまりにも簡単に倒してしまうので、他人からは軽くあしらっている様にしか見えない)のだから、居ないはずがない。
 しかし返事はまったくない。
 ―もしかして、最悪のパターンかもしれない。
 時々、施設内では物足りないと、外に出てそれ以上に凶暴なモンスターと戦いにいく事がある問題児なのだ。各教官からも止めるようにとれているが、本人はまったく無視。“より実践に近い経験が出来る。自分には一番向いている訓練だ”と言って返す程だった。事実、戦闘技能はガーデン生徒の中で高い能力を有し、SeeDを超えているといまで言われていた。
 だけど、指導教官である自分の立場を考えてほしい。
 怪我をして帰ってこようものなら、“経験と指導力が不足しているから、生徒に嘗められるのだ。それがこの結果だ”と厭味つきで咎められてしまう。ただでさえ生徒に人気があるという僻みで、声高に自分を否定する教官がいるのだ。
 ―これは外で決定ね。帰ってくるまで待つか…
 諦め、ため息をつく。施設を出ようと踵を返すと、目の前の草木がガサッと動いた。     
「スコール?やっと、出てきて―」     
 歩みながら声を掛けた其処から出てきたのは―     
「シャーッ!」     
 施設内で最も凶暴と言われている、モンスターアルケオダイノスが現れた。     
 すぐさにチェーンウィップを出し、戦闘体制をとるが、運悪く石にヒールが取られ倒れてしまった。身をおこしながらもチューンウィップを振りかざそうとするが、間にあわない。岩をも砕く爪がキスティスに向け振り下ろされる。     
 覚悟を決め咄嗟に目を閉じたが、激痛は一向にこない。代わりに来たのは、大木が倒れた程の音と地響き。     
 目を開けたキスティスが見た物は、所々がくすぶり背中をザックリと切られたアルケオダイノスが絶命した姿だった。     
「不用心じゃないのか?」     
 頭上から掛けられる声の主は、キスティスが探していた生徒であり、モンスターを倒した人物でもある―     
「スコール…」     
 扱いが難しくすたれつつある武器、“ガンブレード”を手に彼は立っていた。少し弾んだ息、左手甲の切り傷。他にも細かい傷が見られる所をみると、彼にしては珍しく手間取ったようである。     
「…で、なんなんだ?俺を呼んでいたようだが」     
 スコールはガンブレードを腰の鞘にもどし尋ねた。     
 ―その前に、一言ないのかしら…     
 仮にも女性が危険に曝され、今も地に座り込んだままなのである。“大丈夫か”と尋ねるとか、手を差し出して立たせるとかするのが男性のマナーではないだろうか。     
 でも、この男に求めるほうが間違っていた。常に他人を距離を置く姿勢と、無口に無愛想な非社交的な性格の問題児に。     
「ある生徒に泣きつかれてね。意見をしに来たの」     
 制服に着いた泥を払いながら、キスティスは立ち上がる。その前に咳払いを一つして。しかし、彼の態度はまったく変わらなかった。右手を腰にあて立っている。つまり、咳払いの意味が判っていないのだ。     
―まっ、無駄なことだと思ってるけどね…     
 ヒールを履いているため、本当なら少し見上げる視線が同じになる。一見無表情に見えるが、自称“スコール研究家”の自分には判る。     
 “用があるなら早く言え。俺は暇じゃないんだ”と彼は言っている。怒り出す前に早く言いますかと、気付かれないよう小さく溜め息を付き話し出す。     
「あなた告白した女子を振ったそうね。それも即答で」     
「告白した女子……(今朝のあれか)」





next→

‖まにまに文庫‖ ‖石鹸工場‖