この件は、一日を経たずしてガーデン内で話題となり、スコールへの関心度は高まっていた。 その影で、ゼルの事も話題となり、あちらこちらで笑う者がいた。

―腹たつ〜
 これも全部、スコール・レオンハートのせいだと、ゼルの足は訓練施設へと向かった。 クラスメイトから、彼は授業がない時間、此処でモンスターと戦うのを日課としていると聞いたのだ。
 訓練施設内に入ると、独特の空気、臭いが漂ってきた。 それと共に聞こえるモンスターの唸り声。 こんな所に入り浸っているとは“変わった日課ですね”が、ゼルの感想である。 モンスターと常に戦えるというのは良いのだが、その環境に合わせた湿度が彼は嫌いで訓練以外で来る事はなかった。

「さて、あいつは何処で戯れているのかな」
 ゼルは散歩感覚でジャングルへのゲートを潜った。 中にいるのは本物のモンスターなのだが、どれも下級〜中級クラスで、生徒の命を脅かす程の凶暴なものは用意されていないので、警戒心は薄れていた。 しかし、モンスターには変わりはなく、当然襲いもしてくる。 だが、ゼルの体調は万全。負ける気はなかった。

 暫くして、奥から激しいモンスターの鳴き声が聞こえた。 おそらく誰かがバトルをしているのだろう。そして、それは、―。
「いた」
 予想通り、スコールがモンスターと戦っていた。相手は中級のラルド。 一瞬、加勢に入ろうとしたが、足が直前に止まった。
 長時間居た為か、手こずっているのかは分からないが、スコールの息は少々荒く苦戦しているようだった。 しかし、真っ直ぐモンスターを見る目には諦めや焦りは無く、闘志が漲っていた。 しかも衰えない、戦闘姿勢とガンブレードさばき。
 スコールの戦闘技能は天性のものだと、クラスメイト達は言っていたが、それは違う。 彼は日々、黙々と鍛えていたのだ。ゼルが筋力トレーニングを怠らないように、更に上の者を相手に。 廃れつつある特殊な武器、ガンブレードを巧みに扱う姿は、悔しいが素晴らしいもので、自分の力が及ばない事を知らしめられた。
「グオオーッ」
 そうこうしている内に、ラルドは絶命した。荒い息を整えて、スコールはゼルの方を見た。
「何か用か?」
「きっ、気付いてたのかよ」
「戦ってる最中、一瞬ラルドの注意がそれた。 そんな無防備なままで居ると、モンスターの餌食にされるぞ」
「それは、ご忠告有り難う」
―やっぱり気に入らねぇ
 スコールはガンブレードを鞘に収めると、深く息を付きゼルから視線を逸らした。 その態度が、ゼルには用が無いなら行けと取られ、再び怒りが込み上げる。
―邪魔って訳ですか、そうですか!
 話す気も失せ、去ろうとするゼルにスコールが声を掛けた。
「身体の方は、もう良いのか?」
「へっ?」
「ケダチクの粘つく糸の効果は、もう平気なのか?」
「あっ、ああ。もう何とも無いぜ」
「そうか」
―何だこれ?他人に無関心なんだろ?
 突然のことに、返す言葉が見つからない。
「あいつらは、視力が弱い分聴力が発達している。俺がもっと注意していればよかったのだが」
 スコールが終始無言だったのは、そういう理由があったのだ。 ゼルのように話し続けていれば、自分からモンスターに居場所を教えていたようなものだ。 それに、よくよく考えてみれば、敵地区で呑気に会話なんかしていれば相手に気付かれるどころか、仲間をも危険にさらす事に繋がる。 下手をすれば、情報を取られる事もあり得る。
 スコールが言いたかったのはこの事だったのだ。 しかし、言葉が足らないのが難点であるが。 スコールのSeeDとしての心得は関心するし、充分に分かったのだが―

―何か、悲しくないかそれ

 スコールの徹底した、他人との距離にゼルは寂しさを感じた。 一応、ゼルを気遣っていてくれたようだ。 あくまでも任務上の事であるが、スコールは相手の認識不足を悔いているようだ。
 この時、ゼルの中で思いもよらない感情が生まれた。
「俺、お前の仲間になりたい」
「……」
「お前は迷惑かもしれないが、何でも話し合える仲間になりたい」
「俺は」
「俺が、そう決めた。まっ、クラスが別だし、今日みたいに会う機会は少ないが、その時はよろしくな」
「……」
「やっぱ、一人は寂しいだろ」
 そう言い、ゼルは手を差し出した。握手を求めているのだ。
 しかし、スコールは答えなかった。無表情で見返している。
―やっぱりな。
 答えて来るとは思ってなかった。しかし、最初のような腹立だしさは無かった。
「じゃ、邪魔したな」
 ゼルは、苦笑いを浮かべその場を去ろうとした。
「ゼル」
 スコールが呼び止めた。
―何だ?まさか、俺もお前の仲間になりたいなんて言うのか?
「何だ、スコール」
「後ろ、居るぞ」
 少し、浮かれ気分で振り返ったゼルが見たもの、スコールが指さすそれは―。
「シャーッ」
 訓練施設内の定番、モンスター・グラッドだった。
「だから、早く言えってーっ!」
 再びゼルの叫びが施設内にこだました。

「すげえよな」
「今度も魔法と武力の使い分けで仕留めたんだって?」
「その魔法も、習いたての“ブリザド”だったってさ」
「さすがだなー」
「その後、施設出るまで、同様に倒していったらしいぜ」
「一度も引かずにか?」
「それも、負傷者一人抱えてだぞ」
「そうだよな、ゼル」
 再びその“負傷者”と言われたゼルが居る此処は保健室。

 あの後、咄嗟の事で戦闘態勢がとれず、見事にグラッドに痛い一撃をくらった。 しかも相手の動きを封じる“催眠ガス”のサービス付で。 この時のゼルは、万能薬どころかアイテムも一切持ってなく、スコールは同様に“自分には必要ないから”と持っていない始末。 おかげで眠らされたまま、訓練施設から保健室まで担がれ―

「また、スコールに助けられたんだってな」
「うるせーっ!!」
 布団を被った中からゼルが叫ぶ。
 今度は、ガーデン内に醜態を晒され、話が更に重ねられ広まっていると言う。

―やっぱり……やっぱり……

「俺は、あいつが大嫌いだーっ!」

 被っていた布団を払いのけ、ゼルは吠えた。
「それだけ元気なら大丈夫だね。さっ、部屋に戻りな」
 再び、カドワキ先生の言葉は、傷ついたゼルのプライドに追い打ちをかけた。





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あとがき

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