中村あきら

 俺の名前はゼル・ディン。
 日々、SeeDになる為、此処バラムガーデンで特訓し知識を学んでいる。
 俺がSeeDになると言い出したのは10歳の時。 親父は驚き腰を抜かし、お袋は『どうしたんだい』と額に手を当て熱なんか計ってきた。 二人ともかなり驚いたということなのだが、息子の真剣さを直ぐに汲んでくれて、笑顔で『あんたに向いているかもね』と言い、賛成してくれた。 恥ずかしながら、俺はバラムの街では“暴れん坊ゼル”と呼ばれ、可愛く言えば“やんちゃ坊主”、悪く言えば“悪戯坊主”だった。 そんな俺の口からSeeDなんて言葉が出たのは、町にとって前代未聞の出来事らしく半日で話題となり、入学時には近所の人々が見送りまでする騒動となった。
 バラムガーデンに入学するのに筆記試験とか、体力テストなどは無く、基礎学力と体力があれば誰でも入学出来ると聞かれた所だった。 だが、覚えることは山のようにあり、中でも世界情勢は最初の頃は下の下の成績。 何度、追試試験を受けた事か…。その分、実技に置いてはパーフェクトだった。
 自分で言うのもなんだが、俺の体型は小柄の部類にあたる。 だが、格闘技に関してはバラムガーデンで負けた事がない。 日々の鍛錬の中であみ出した、“俺式格闘技”。これにかなう奴は、絶対いないと確信している。 過去のSeeDにも、拳を武器とした者は居ないと聞いていた。 小さい頃から鍛えたこれで、俺が初の“拳のSeeD”になるんだ。
 現在、この年で俺は14歳になる。来年になれば、“SeeD選抜試験”を受ける資格が与えられる。 もうすぐ俺の夢が叶う。

 各部門に関係なく、14歳になる年からの野外訓練では、架空任務の上で行動する“SeeD”が行われる。 任務内容は実際に比べれば易しいものだが、時間設定,依頼人の安否など事細かに決められ、当然のことながらモンスターも出現する。 時にはクラス内で敵対する戦闘内容もある。 “SeeD選抜試験”の実技試験には本場の戦場で行われる為、少しでも戦場慣れしておくというのが、この訓練の意図とされていた。
 今日は訓練初日と任務内容が簡単という理由で、二クラス合同で行われる。
 任務は『アルクラドの森』を抜けた司令塔のコンピューターに、自分の名前と暗証番号を打ち込む。 二人で行動し、制限時間は三十分。モンスターは倒す事が原則、場合によっては逃げても良い。 必ず二人で司令塔に行くのが必須とされた。
 ペアは教員によって、予め編成されていたのだが、両クラス共に一人溢れてしまった。 一人づつというあって、ならこの二人でペアとなったのだが……。
 
―正直辛いぜ
 ゼルは、目の前を歩く男子の背中を見て、気付かれないように溜め息をつく。
 森に入って十分。交わされた言葉と言えば―。
『訓練でも、任務の上での行動ってドキドキしねえか?』
『別に』
『……モンスターなんかも、訓練施設のとは比べ物にならないらしいぜ』
『そんなことはない』
『……その腰のガンブレード、すげぇな』
『たいした物じゃない』

―会話が続かねぇ……
 しかも、この男子はゼルを見ることなく、背を向けたまま答えている。
―噂には聞いてはいるが、それ以上の奴だぜ……
 ちょっと自分より頭が良くて、ちょっと自分より強くて、ちょっと自分より背が高くて、ちょっと自分より顔が良くて、ちょっと自分より女子に人気があって……。

―……虚しくなってきた……

 記念すべき、初野外訓練“SeeD”のパートナーが、成績優秀の無表情、無関心、非社交的性格で有名なスコール・レオンハートになるとは。
 パートナー発表された時は、あのスコールとペアが組めるとあって、正直ワクワクした。俺同様に、教員をも凌ぐ戦闘技能を持っている奴なのだ。 直に見れるとなれば、多少の性格は目を瞑ろうという考えは甘かった。 此処でモンスターが出てバトルとなれば、そんな気も失せるのだが。
 現在スタートして十二分、未だモンスターとの遭遇は無かった。
「お前さ、任務遂行もいいけど、もう少し相手の気も考えろよ。」
「……」
 初めてスコールがゼルを見た。噂通りの無表情、しかも“何言ってるんだ?”の疑問符付だとゼルには分かった。
「初の任務となれば、相手は緊張やら興奮でドキドキするもんだろ? 少しでも気分を紛らわしたいんだよ。話に乗ってくれてもいいじゃねえか」
「……」
 ゼルは、募ったいらだちもあって、一気にまくし立てるように言う。 それをスコールは黙って受け止めているが、彼の口から出たのは言葉ではなく溜め息だった。 腰に手を当ててのそれは、ゼルの気に触った。
「何だよ、その態度は!馬鹿にしてるのか!?」
「……」
「そうだよ緊張してるよ、ワクワクだってしてるさ。訓練であれ、初任務だからな。 簡単なものだけど失敗はしたくない。俺は、SeeDになりたいんだ。 上手く事を運ぶには、相手を気遣って知るスキンシップが大切だろう?それって、馬鹿馬鹿しい事か?」
「あんた、ピクニックにでも来てるつもりか?」
「!?」
 スコールの言葉は、ゼルを黙らせるのに充分の威力があった。
「相手の行動パターンを知るのは確かに必要だ。 だが、あんたの言うスキンシップは“仲良くなりたい”の域にしか聞こえない。 任務の上では関係ないものだ。」
 そうして再び背を向け歩き出す。

―何だよそれ……他人なんて関係ない、必要ないってことか?

「―ねぇ」
「……?」
「気にくわねぇっ!お前みたいに戦闘技能が優れた奴には、俺らみたいな初心者は邪魔ってことなんだな!だったら勝手にしろ!」
 そう言うと、ゼルはスコールと反対方向に歩き出した。
「おいっ、そっちじゃないぞ!」
「うるせぇ、お前と一緒なんてごめんだ!」
「二人行動が厳守だ。一人で司令塔に行くと減点されるぞ」
「なら、司令塔近くで落ち合おうぜ。それなら文句ないだろ」
 
 ゼルに止まる意思は全く無い。一分、一秒でもスコールから離れたかった。
―ピクニック気分だと〜っ
「ゼル」
―相手の行動パターンって、俺はモンスターか?ロボットか?
「ゼル」
―“仲良くなりたい”の域とまで言いやがって
「おいっ、ゼル!」
―ああ、その通りだよ。仲良くなりたいさ、仲間になりたかったさ。SeeDを目指す者同士として
「止まれ!ゼル・ディン!!」
―他人に干渉しないんだろう?なのに―

「何だよ、さっきから!他人の事はほっとけよ!!」
「後ろ、いるぞ」
 振り向いたゼルが見たもの、スコールが指さすそれは―。
「ピシャーッ」
 アルクラドの森の定番、モンスターのケダチクだった。
「早く言えーっ!!」
 ゼルの叫びが、森にこだまする。


「すげえよな」
「魔法と武力の使い分けで仕留めたんだって?」
「その魔法も、習いたての“ファイア”だってさ」
「さすがだなー」
「その後のモンスターも、同様に倒していったらしいぜ」
「一度も引かずにか?」
「それも、負傷者一人抱えてだぞ」
「そうだよなゼル」

 その“負傷者”と言われたゼルがいるのは、此処、保健室。他にも数名、本日の訓練で負傷した生徒が居たが、ゼルはその中で重傷の類にいた。
 
 あの後、咄嗟の事で戦闘態勢がとれず、見事にケダチクに痛い一撃をくらった。 しかも相手の行動を封じる“ねばつく糸”のサービス付で。 随時渡されていた万能薬で回復出来るのだが、運悪くゼルは最初の一撃でアイテムバックを飛ばされ、スコールは“自分には、必要ないからと持っていない”と平然に言う始末。 おかげで動きがままならない為、その後もモンスターの標的にされ続け―

「ずっと、スコールに助けられたんだってな」
「うるせぇーっ!!」
 一番言われたくない事をクラスメイトはさらりと言ってのけた。

―俺の格闘技を、俺の強さをあいつに見せつけてやる筈だったのに……。

 結果的に時間内には司令塔に到着したのだが、その間自分はスコールの肩に担がれていたという醜態を皆に晒された。 しかもスコール自身は無傷で、息を切らす様子もないため、ますます女子から憧れの視線を注がれ、ゼルは笑いを注がれる。

「俺は、あいつが大嫌いだーっ!」
 
 被っていた布団を払いのけ、ゼルは吠えた。
「それだけ元気なら大丈夫だね。さっ、部屋に戻りな」
 カドワキ先生の言葉が、傷ついたゼルのプライドに追い打ちをかけた。  





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