聖ベベル宮に突入したティーダ達は、結婚式をブチ壊すことに成功したものの、祈り子の間でユウナと合流した途端、全員が捕らえられてしまった。
 囚人房に入れられたのち、浄罪の水路に放り込まれたティーダは、そこでリュックとワッカを見つけることが出来た。
「ユウナん達、ここで待ってれば来るかな?」
「分からないけど、とりあえず出口で待つことにしよう。」
「そんじゃまあ一泳ぎすっか!」
 3人は水路を泳ぎ始めた。
 だがいくらも進まないうちに、彼らの行く手にモンスターが現れた。
「早速おいでなすったか。そうこなくちゃな!」
 ワッカは愛用のボール、ダークパワーを小脇に抱え、意気揚々と水中に潜って行った。
「リュック!魔法の見せ所だ!よろしく頼むっスよ!」
 ティーダはダブルエッジを握り直し、ワッカのあとを追って勢いよく潜った。
「‥‥」
 リュックはまるで溺れる人のように力なく水中に没していった。
 敵はサハギン、フレジアスといった水棲モンスター。いずれも弱点は雷属性攻撃である。
 さすがはルールー見事な先読み、とティーダはニヤリと笑みを浮かべてリュックに視線を送った。
 しかし当のリュックは浮かない表情で、ティーダとワッカがモンスターに攻撃を加える間も、ただ水中を漂っているだけでなにも行動を起こさなかった。
 しびれを切らしたティーダが身振りで魔法を使うように促すと、リュックはブルブルと首を振り、くるりと背を向けると一目散に水面めがけて泳ぎ上がっていった。
「なにしてんだ、おめーはっ!ちっとは攻撃しろーっ!」
 モンスター達を片付けて水面に上がったワッカは、水しぶきをまき散らしながら怒鳴った。
「なんで魔法を使わないんだよ、リュック。」
 ティーダも大声こそ出さないが、その声には少しだけ咎めるような響きがあった。
「やっぱりダメだよ〜。ムリだよ〜。怖くて出来ない〜。」
 リュックは情けない声をあげた。
「ああ?お前今頃なに言ってんだ?貴重な黒魔法スフィアまで使って魔法覚えといてよ。」
 ワッカは人差し指でリュックの額をぱちんと弾いた。
「だって〜!仕方ないでしょ!怖いもんは怖いの!悪いっ!?」
 逆ギレしたリュックはワッカがたじろぐほどの剣幕で突っかかった。
 ワッカとティーダは処置無しというように顔を見合わせた。
「分かった分かった。落ち着け、リュック。」
 ティーダはリュックをなだめた。
「リュックの気持ちはよーく分かったから。でも最後に一回だけ使ってみないか?最初で最後の一回。そしたらもう魔法を使えなんて言わないからさ。」
「‥‥一回、だけ?」
「そう、たったの一回。これっきり。それならいいだろ?」
 リュックは思案した。そして、さすがに一度も使わずに魔法を封印するのは申し訳ないと思ったのか、その提案を受け入れた。
 しばらく水路を進むと、再びモンスターが行く手を遮った。
「俺達は後ろで待機してるから、まずはリュックがドカーンと一発、先制の魔法をお見舞いしてやれよ。」
「お、おっけ〜‥‥」
 3人は水中に潜った。
 モンスターと対峙したリュックは、途端に舞い上がってしまいパニックに陥った。
(あ、あれ?魔法ってどうやって使うんだっけ?うわあ〜、頭ん中真っ白〜!)
 もちろんモンスター達は待ってはくれない。一斉に襲いかかって来た。
「!」
 後方で待機していたティーダとワッカが、やはり無理だったかと加勢に飛び出そうとしたその時、
「ぶわんぐがば〜っ!」
 恐らくサンダラと叫んだのだろう。鋭い稲妻が水を切り裂き、モンスターに命中した。
 リュックはモンスター達の様子を確かめもせず、じたばたともがくようにして浮上していった。
 リュックがゼイゼイと乱れた呼吸を整えていると、ティーダとワッカが浮き上がって来た。
「あは‥‥あはは、ごめんっ。魔法の撃ち逃げみたいなことしちゃって。」
 リュックはぱんっと顔の前で両手を合わせた。
「やったな、リュック!すごいぞ!」
「へ?」
「一撃っスよ、一撃!たった一回の魔法でモンスターを片づけちゃったんだよ!」
 目を丸くするリュックの背中を、ティーダはバシンと叩いた。
「ほ、ホントに?」
「本当だ。疑うんなら今度は自分の目で確かめるこったな。」
 ワッカはニッと笑って親指を立てた。
 魔法の威力を確かめる機会はすぐにやってきた。ティーダの背中に隠れるようにしながら放ったリュックのサンダラは、見事サハギンの群を粉砕した。
「す‥‥すっごーい!ねえ、今の見た!?一発でドドーンとモンスターをやっつけちゃったよ!」
 水面に上がったリュックは、興奮気味に水をバチャバチャとはね散らした。
「な、言ったとおりだろ?で、どうする、リュック?サンダラの魔法、やっぱり封印しちゃうか?」
「え?あ〜、ん〜、そうだねえ。どっしようかな〜。」
 リュックは考え込んだが、それが単なるポーズであることはティーダもワッカもお見通しだった。
 結局、魔法の威力に気をよくしたリュックは、サンダラを続投することに決めた。
 最初のうちはへっぴり腰で怖々サンダラを撃っていたリュックも、徐々に魔法の使い方に慣れると、パーティの主力となって次々とモンスター達を打ち倒していった。
「気持ちいいくらいサクサクっとモンスターが倒せちゃうよ。気分爽快っ。」
 ついさっきまであれほどサンダラを使うことを嫌がっていたことなどすっかり忘れ、リュックは上機嫌で水路を泳いでいった。
 順調に水路を進む彼らの前に、ベベル上空で倒したはずの聖ベベル宮守護聖獣エフレイエが現れた。
「うわっ、なんでこいつがこんなところに!?」
「おいおい、冗談じゃねえぞ。たった3人でこんなヤツと戦えってのかよっ。」
 思ってもいなかった強敵の出現に、ティーダとワッカは緊張で身を硬くした。
「心配無用!まっかせなさーい!」
 リュックはどんと胸を叩いた。
「まっかせなさーいってお前なあ、あいつにサンダラなんて効くと思ってんのか?」
 ワッカは呆れたように言ったが、それに対してリュックはチッチッと指を振った。
「ちっがーう。誰もサンダラで倒そうなんて思ってませーん。あいつは一度倒したんだから、今や立派なアンデッドってことでしょ?だったらこれが一番。くらえ、フェニックスの尾!」
 リュックは蘇生アイテムを投げつけた。フェニックスの尾を浴びたエフレイエは苦しそうにのたうち回った。
「リュック冴えてる!よーし、俺もいくっスよ!レイズ!」
 ティーダの白魔法とリュックのフェニックスの尾攻撃で、エフレイエは反撃らしい反撃をする間もなく幻光虫となって四散した。
「なんだなんだ?おい、絶好調じゃねえか、リュック。アイテムマスターリュックも健在だな!」
「へっへーん。このリュックさんが魔法とアイテムでバシバシモンスターやっつけちゃうからね〜。」
 リュックはノリに乗っていた。
 その後もモンスターを排除しながら水路を進む一行の前に、ようやく出口らしきものが見えてきた。
「あの光がきっと出口だ。思ったよりは楽な道のりだったな。」
「ラストスパートはあたしにまかせて!どんなモンスターが出て来ても、ちょちょいのちょいって片付けちゃうよっ。」
「おおっ、リュックすっかり頼もしくなったなあ。」
 カミナリ恐怖症を克服したことが自信に繋がったのか、リュックは一回り大きく成長したように見えた。
 と、ここまではすべて順調だったのだが‥‥。
 あと一息で出口というところで、モンスターと遭遇した。
「こいつを倒せば外に出られるぜ。」
「一気に行くっス!」
「大トリはこのあたしにおまかせあれ!」
 リュックは軽快なスクロールでもって水中に潜って行った。そのあとを苦笑しながらティーダとワッカが追った。
 敵はタコのお化けのような姿のモンスターだった。他に仲間はなく、単独での出現である。
 相手が一匹ならますます楽勝だ、と顔を見合わせた3人はそれぞれグッと親指を立てた。
 リュックが先制のサンダラをお見舞いしようと前に進み出た。ティーダは魔法のあとの連携攻撃に備え剣を構えたが、その時敵モンスターの妙な動きに気付いた。
 モンスターの周囲にほんの一瞬光の膜が張られたように見えたのだ。その光には見覚えがある気がした。(あれはたしか白魔法の一種だったような‥‥)
 リュックが自信満々のサンダラを放とうとした瞬間、ティーダはその光の意味するものを思い出した。
「ぶゆっぐ!があべばっ、ぐづがあ〜!!」
 リュック、ダメだ、撃つな、と言ったつもりだったが間に合わなかった。
 リュックの放ったサンダラはモンスターをとらえた。
 やりい!とガッツポーズをとったリュックだが、一瞬後、サンダラの魔法はモンスターの周囲に張り巡らされていた光の膜によって弾き返された。
「んな゙?」
 そして跳ね返ったサンダラは、放った本人にそっくりそのまま命中した。
「ゔんぎゃああああああ゙〜っ!!!」
 水中をものともしないものすごい叫び声が上がった。その悲鳴を最後に気絶したリュックは、ゆっくりと水路の底に沈んで行った。
 慌てたのはティーダとワッカである。ワッカがモンスターを仕留める間、ティーダは沈んだリュックを助け、すぐさま水面に浮上した。
「おい、リュック!?しっかりしろよっ!」
 ティーダがリュックの頬をぱちぱちと叩いていると、モンスターを片付けたワッカが浮き上がった。
「大丈夫か!?」
「ああ、なんとか。リュック、サンダーガードつけてたみたいだ。それほど大したダメージは受けなかったはずなんだけど‥‥」
「ははっ、準備のいいヤツだな。おい、起きろっ。これしきでのびてる場合じゃねえぞ。」
 ティーダとワッカが呼びかけ続けていると、ようやくリュックはうっすらと目を開けた。
「気が付いたか、リュック!」
「ったく心配かけやがって。」
 意識を取り戻したリュックは、まだ呆然としたように2人を見返した。
「運が悪かったよなあ、リュック。まさかリフレクを使う敵がいるなんてな。」
「魔法を反射する魔法ってヤツか。そんな相手に魔法攻撃はちっとまずかったな。」
「でもまあ、しょうがないさ。いい勉強になったってことで。」
「これも一種の教訓だな。次から注意すりゃあいいこった。」
 しかしリュックは2人のなぐさめの言葉など聞いていなかった。
「う‥‥」
「ん?どうした、リュック?」
「うへへ‥‥」
「‥‥リュック?」
「なんだよ、気味悪い笑い方しやがって。」
 ワッカとティーダはリュックの顔を怪訝そうにのぞき込んだ。
「うへへへへへへ‥‥」
 リュックの視線はぼーっと定まらず、口からは不気味な薄笑いがもれていた。
「サンダラを受けたショックでどっかおかしくなったか?」
「こ、この笑い方は前にも聞いたことがあるような‥‥」
 ティーダは肩に担いでいたリュックの腕を思わず離した。
 支えを失って一瞬水中に沈みかけたリュックは、両手をザンッ!と水面に打ち付けた。
「んだ‥‥」
「んだ?」
 リュックのボソボソ声に2人は耳を傾けた。
「だら‥‥」
「だら?」
「サンダラ。」
 ピカーッと眩い閃光が走り、3人の間に稲妻が落ちた。
「どわ!?」
「リュック!?」
「うきーっ!うきゃきゃきゃきゃきゃーっ!!サンダラサンダラサンダラサンダラーっ!!!」
 リュックはサンダラを四方八方あたりかまわず乱発した。
「うわーっ!リュックがこわれたー!」
「なんだあこいつ!?頭の線がどっか一本切れやがったな!」
 突然のサンダラの雨に逃げまどうティーダとワッカ。
「クソっ、こうなりゃ仕方ねえ!スリプルバスターで眠らせ‥‥」
「そんなことしたら眠る前に死んじゃうって!わあ!リュック正気に戻れーっ!」
 呼びかけもむなしく、サンダラ乱れ撃ち攻撃はリュックのMPが切れるまで続いた‥‥。





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