「ベベルは水上に築かれた都市よ。水中でのバトルも有り得るわ。あんたかリュックのどちらかが、攻撃の黒魔法を修得しておいた方がいいわね。」
ビーカネルの砂漠で拉致され、聖ベベル宮において今まさにシーモアの花嫁にされようとしているユウナを救出すべく、ティーダ達の乗った飛空艇は飛行していた。
「黒魔法かあ‥‥」
ルールーから今後の対策について助言されたティーダは、少し考えて言った。
「よしっ、そんじゃ俺が覚えるっスよ。魔法なら白魔法で馴れてるし。」
「あーっ!待って待って!あたしが覚える!」
2人の会話を聞きつけたリュックが割り込んで来た。
「でもリュック、魔法使ったことなんてないだろ?」
「だ・か・ら、覚えるのっ。それにずっと憧れてたんだ〜。魔法使いってのにね。」
「はは〜ん、もしかしてそれも、目指せルールー!の一環てヤツ?」
「ま、それもあるけどねっ。」
リュックはペロッと舌を出して笑った。
「なあに?目指せルールーって?」
不思議そうに訊くルールーに、リュックは顔の前で左右に手を振った。
「いいのいいの。気にしないで〜。とにかく、黒魔法はあたしが覚えるよ。もうちょっとバトルで活躍したいしね。今のままだとなんだか単なる盗み要員かアイテム係って感じだし。」
リュックの言葉にティーダとルールーは苦笑いした。( 結構気にしてたんだ‥‥)
「じゃあリュックが黒魔法係ってことで決定だな。それでなんの魔法を覚えればいいと思う、ルールー?」
「そうね。やっぱり水中戦を想定した場合、有効なのはなんといってもサン――」
「さいならっ!」
リュックはバビュン!ととんずらこいた。
「っておい!?リュックーっ!なんで逃げんだー!」
ティーダが声をかけた時には、すでにリュックの姿はブリッジから消えていた。
しかし、そのあとすぐにキマリによって連れ戻されて来た。ブリッジから出たところを通路にいた彼につかまったらしい。
「キマリは事情は知らない。だが、とりあえず連れて来た。」
「ナイス!キマリ!」
「もう〜!キマリの裏切りモノ〜っ!」
キマリの手から逃れたリュックは、ブリッジの床にぺたんと座り込んだ。
「なんでいきなり逃げるんだよ、リュック?自分から魔法覚えるって言っておいてさ。」
「‥‥だって〜。」
「あ、まさかサンダー系の魔法は覚えたくないとかっていうんじゃ‥‥?」
リュックはコクコクと頷いた。ティーダとルールーは顔を見合わせ、やれやれとため息をついた。
リュックは知る人ぞ知る大のカミナリ嫌いである。その原因は彼女の子供時代までさかのぼる。
子供の頃、アニキと海で遊んでいた時のこと、2人はモンスターに襲われた。とっさにアニキはサンダーの魔法で撃退しようとしたのだが、慌てていたアニキは誤ってリュックにまでサンダーを浴びせてしまったのだ。
それ以来、リュックは雷鳴を聞くと悲鳴を上げて飛び上がるほどのカミナリ恐怖症となっていた。
操縦席のアニキはリュックを振り返り、ニヤニヤと笑った。
「ハラテメネハワ、リュック。ヤガアイハニダヨカミハンセミっセンオアモ。ミっサミミルユガ、トヤネ?」
リュックはアニキをキッと睨んだ。
「フっラミハワ!コソマソミネザワシチダカウミンギゃハミラ!まほうケっサルホハルヘシアっヨユテセユアフアナ!」
「ハンガソ!?トエダワオソチサンダーベまものムタっユテハアっサナ、ミヤゾノトヤネヨヨシマミハミンガアナハ!」
「ワシチオリょノリょノまほうダハルサっセ、ワサキオソルヘミキゅニゅフガンベヨっプイギンシベチサモ〜ガっ!」
いつの間にかアルベド語の怒鳴り合いが始まっていた。
「な、なんて言ってるのかわからないっス‥‥」
「兄妹ゲンカしてるのは確かなようね。」
「はあ〜。今はこんなことしてる場合じゃないっつーのに。」
犬と猫のようにギャーギャーとケンカする2人を、キマリが仲裁した。
「ケンカならあとでいくらでもすればいい。しかし今は他にやることがある。」
兄妹はしぶしぶ引き下がった。
「えっと〜、とにかくそういうことだから、魔法覚えるのあたしパスっ。」
リュックは両腕を交差させ、大きく×を作った。
「どうして?いくらカミナリ嫌いだっていっても、魔法は別だろ?」
「う〜、そうは言うけどやっぱり同じだよ〜。ピカピカーっのどかーんってさ。」
「でもルールーがしょっちゅうサンダー系使ってるけど、リュック平気じゃないか。」
「ルールーは黒魔法のプロフェッショナルだから、バカアニキみたいに撃ち間違えたりしないでしょ。だからあたしも安心して見てられるんだよ。」
「リュックが自分で魔法覚えて自分で撃つんだから、それと同じことだろ?」
「だってあたし魔法は素人なんだよっ。まかり間違えて自分に当てちゃう可能性は捨て切れないよ〜!」
「はあ?いくらなんでもそりゃ考えすぎだって。」
ティーダはなんとか説得しようとするが、リュックはぶんぶんと首を横に振るばかりだった。
「サンダー系以外の魔法なら覚えてもいいんだけどな。ねえ、それじゃダメ?」
リュックは両手を合わせ、上目遣いでティーダを見た。
「なにか目指すものがあるなら、自分の弱い部分を変えようとすることも必要だとキマリは思う。それが自分を高めることにつながり、やがて目指すものに近付くことが出来る。」
キマリは淡々として言った。
「さっすがキマリ!いいこと言うなあ。俺も断っ然そのとおりだと思うっス!」
すかさずティーダはキマリの尻馬に乗った。
「いい機会だよ、リュック。これを機にカミナリ恐怖症を克服出来るかもしれないだろ?目指せルールー計画大幅前進っス!」
「うう‥‥」
リュックはティーダとキマリを交互に見て、やがて視線を床に落とした。心なしか肩も落ちている。
「‥‥分かったよう。あたし、やるよ‥‥」 |