ヒュ〜 ドォーン 
う・・・ん・・・ あれは花火の音・・・じゃな?・・・
とすると、もう朝なのか?
今日も一日が始まるのじゃな・・・
風・・・?心地よい朝じゃな。
フライヤは寝返りを打ち、滑らかに指を滑らせ、そこにいるはずの温もりを感じ取ろうとした。
しかし、そこにはやや冷たくなったシーツが広がっているばかりだった。
心臓がドクンと波打った。
まさか?!
フライヤはベットから慌てて身を起こした。
窓から風が流れこんでくる。やわらかな春の光に包まれてたたずむ影・・・
「フラットレイ様・・・?」
影がゆらりと動く。
「様はやめないか、フライヤ」
「は・・・い」
フライヤは頷きながら眩しそうにフラットレイを見上げた。
影はくるっと窓の方を向くと、「こっちに来ないか?」と言った。フライヤは素直にそれに従った。
窓の下には花火を眺めるブルメシアの民が歓声を上げている。(やっとこの日がきた。待ちに待ったこの日が・・・)
「ようやくこの日がきたな、フライヤ」
「はい。皆もこの日をどんなに待ちわびたことか」
そう、何年かかってでも、生き残ったブルメシアの民と王宮を再建すると、フラットレイが誓ってくれたあの日から、私は嬉しくもあり、また影のように忍び寄る不安と戦いながら、この日をどんなに待ちわびた事か。
「パック王子も随分と逞しくなられた。いや、今日からは王だな。明日からはまた新しい日が始まるな。」
(そう。あなたが帰って来てくれたから。)
フライヤはそっとフラットレイに寄りかかる。
(ドックン 今日から新しい日が始まる・・・)
フライヤはちらりとフラットレイの横顔を覗き見る。
その唇が微笑んでいる事を確かめながら、フライヤはさらにフラットレイの暖かさを感じた。
フラットレイの手が優しく肩を抱く。
(この時間ができるだけ長く続けばいい。それだけで私は・・・)
「フライヤ・・・」
(ドクン)フライヤの心臓が早鐘を打つ。
(まさか・・・フラットレイ・・・さ・・・ま)
「フライヤ私はまた、」
(言わなければ、今度こそ、何と言われようとも!)
「私はまた旅に出ようと思う」
(ああっ。私は、わたしは!)
フラットレイは穏やかに微笑み、ゆっくりと言った。
「フライヤ。私は今日を見届けたら、また旅に出ようと思っている。
世界を周り強者と会っておきたいという私の夢を、今度こそまっとうしたいのだ。」
フライヤは真っ直ぐにフラットレイを見つめた。
「フラットレイ、またもやこのフライヤを・・・」
「私の記憶を取り戻しながら、早く平穏なブルメシアの再建にお前も私も、ブルメシアの民も全力を尽くしてきた。
なによりもパック王子の成長には目を見張るものがあった。
私は本当にフライヤ、お前には感謝している。私が記憶を取り戻せたのは、お前がそばにいてくれたからだ。
どんなに、この日を待ちわびた事だろう。」
(しかし、フラットレイ・・・あなたは行ってしまわれるのですね。またこの私を残して・・・)
「フライヤ。世界には、私よりも強き者がたくさんいた。私も記憶が戻り、平穏なブルメシアも取り戻した。 やはり私は、私のこの腕と、槍一本でどこまで行けるか試してみたいのだ。」
「フラットレイ、あなたの決心はよくわかりました。このフライヤが止めたところで、あなたは行ってしまわれるでしょう・・・ただ私は」
フラットレイは俯きかけたフライヤをそっと抱き寄せた。
「私は自分の力を信じていた。しかし私は自分の記憶すら失ってしまった。だが、運命は信じている。お前と出会い、そして再びお前の元に帰ってきた自分の運命を」
「フラットレイ。私は一人で生きてゆける自身がない・・・外界へ見を投じた時聞こえてきたあなたの噂。
もはやその身が果てたという噂をじゃ!しかし私は信じなかった。この目で、この耳で確かめるまでは信じてはならぬとおもったのじゃ! しかし、またあなたは、」
フライヤは堪え切れなくなりフラットレイにしがみ付いた。まるで子供のように。
「フッ ハッハハ」
フライヤは力なく笑った。
「まるで駄々っ子のようじやな・・・このフライヤともあろうものが・・・しかしわたしは」
「フライヤ。私は、このフラットレイの再期を見届けるのは、フライヤお前だと信じている。そしてそれを見届けて欲しいとも願っている。
それは、私の我侭なのだろうか?」
フライヤの心臓がドクンと波打つ。
「フラット・・・レイ・・・?」
フラットレイは窓から差し込む今はもう眩しいくらいに降り注ぐ朝日に向かい、その燐とした顔でつぶやいた。
「フライヤ。同じ道を極める者として、誇り高きブルメシアの竜騎士として、この私と共に世界を周ってみないか。
いや・・・・私と運命を信じてみないか?」
「フラットレイ・・・それは・・・このフライヤについて来いと?」
フラットレイはきりっと唇を結び、フライヤの瞳をじっと見つめ
「いや。ついて来いではない。」
「では・・・?」
「私はお前を同士・・・いや、お前と一緒に歩みたい。お前の行く道も歩いてみたい。私はお前の腕も、運命も信じている。」
「フラットレイ・・・行きます。あなたと共に」
窓の外が騒がしくなってきている。
ブルメシアの民が歓声をあげている。
この良き日を祝っている。
フラットレイは照れくさそうに言った。
「さて、パック王をどう説得するかだな。前王のようにはいかんだろうな」
「そうじゃな。それが一番の問題じゃのう」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
その瞳は今日の澄みきった青空のようだった。





あとがき




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